先人の知恵を知る 〜室(ムロ)〜

茅野市の食を巡る第4回。
今回紹介するのは 茅野市北山糸萱地区を訪ねてムロをご紹介します。

初回放送日 : 2019/04/08 (月) / 出演 :  茅野市の食を巡る Vol:004 先人の知恵を知る 〜室(ムロ)〜

ムロ」のある暮らしから学ぶ食べつなぐ術

ムロとは、糸萱区誌によると冬季の食料を保存する農家の保管庫である、と記載されている。その昔、各家々では秋の取り入れが終わる頃になると家の前のムロに白菜、大根、芋、ごぼう、人参などを入れ冬に備えたという。
糸萱区では現在でも「横ムロ」「縦ムロ」そして「蔵」、主にこの3つを野菜の保管庫として利用している。
中でも「横ムロ」は敷地内に傾斜がなければ作ることが出来ない貴重なもので糸萱区でも数軒の家にしかない。
一方「縦ムロ」は昔ながらの作りの家であれば大概作られたようだが、冷蔵庫の普及と家族形態の変化とともに今でも活用している家はそう多くはないそうだ。また新しく建て替えられた家が多くなり「縦ムロ」の存在もこれもまた貴重なものとなりつつある。

「蔵」は言わずとしれた家財道具などを保管する倉庫だ。この地域では板づくりの骨格に土を塗り防火対策をしたものが多い。傷んだ外壁を補修したものもあるが、今でも昔ながらの作りのまま残っているものもかなりある。
いずれも100年以上も前から使われているものだということだ。
今回伺ったのは糸萱かぼちゃの生産地としても知られる茅野市内の糸萱区。「縦ムロ」を使っている湯田坂あやめさん、「横ムロ」を持つ湯田坂至さんにお話を伺うことが出来た。

縦ムロ

最初に今も「縦ムロ」を使っているという湯田坂あやめさんを訪ねお話を伺った。

あやめさんの使っている縦ムロの広さは約畳1枚ほどで深さ70cm程度。 板で蓋をして雨や寒さを防いでいる。
湯田坂あやめさん

「縦ムロ」は家の入り口付近の軒の下に作られる。軒の長い家でなければ作ることはできないそうだ。今の家は総じて軒がないのでムロを作ることはできないと言う。
ムロに保存しておいた前の年の大根を食べてるうちに新しい大根ができてくるのよね。そうしたら新鮮ものは生で食べたり、残っているとうが立ったものは煮物やお味噌汁で食べきるの。あとは干して乾物にしておくとずっと食べられるのよ。昔の人はみんなそうしてたのよね。今はそんなことする人も少なくなってしまったけれど。まだまだたべられるものを捨てちゃうのはもったいないでしょ。」

この日、あやめさんのお宅の蔵の周りにぐるりと積まれた薪の上には細く刻まれた大根が新聞紙の上に広げられていた。天気のいい日にこうして干しておくと1週間から10日ほどで切り干し大根ができるそうだ。 ムロにいれておけば凍ることはないが傷んでしまうこともある。傷む前に切り干し大根にしてしまえば捨てることなく食べることができる。 大根だけでなく、人参、ネギ、芋類は次の収穫まで食べつなぐことができるのだそうだ。 芋は芽が出てくるが、取り除けば問題なく食べることができるという。

昨年秋に採れた大根を使った切り干し大根。夏になっても美味しくいただける。 あやめさんの大学生になるお孫さんも大好物だと言う。

横ムロ

続いて、丘上に立つ糸萱区民館のすぐ下に住む湯田坂至さんのお宅だ。このお宅には丘の傾斜を利用した「横ムロ」がある。

湯田坂至さん

「昔このムロが作られたのは明治時代。当時は水道がなかったから水の確保が目的だったと聞いている。100年以上前。それが野菜の保存にも適してることがわかりそれからずっとこうして保管庫として使っています。一年中一定の温度だから冬は暖かいし夏は涼しいから野菜だけでなく漬物にもとてもいいんですよ。」

野菜や漬物の入った容器の置かれた内部の様子。きれいに片付けられている。
高さ約2メートル。全長がなんと約20メートルの想像以上に大きなムロである。
このムロの中で、収穫した野菜を約4ヶ月間保存が出来るという。
ムロの入り口付近はわずかに入る日が光があるものの全体的にとても暗く、更に奥に奥にとつづく内部は、その先に何があるのかと少し怖いような心持ちとともに、この奥にはどんな世界が広がっているのか、どこに通じるのかななどと考えワクワクしてしまう。
しかしながら残念なことにどこかに通じているということはなく途中で行き止まりになっているとのこと。

最後に映像では触れていないが今回の取材をコーディネートをしてくださり、また糸萱地区の歴史にも詳しい、島立弘さんからもお話を伺うことが出来た。

島立弘さん

島立家にはムロはなく10年ほど前から蔵を野菜の保管庫として利用しているという。蔵自体は100年以上も前のもの。昔は農具類をしまったり米や着物を保管する場所だったそうだ。今ではムロの代わりに野菜を保管する場所として利用していると言う。
取材スタッフが訪れたのはちょうど昼時。
妻のみち子さんが食事を用意してくださっていた。

みち子さん手製の漬物や惣菜が並ぶ食卓。いずれも畑で取れた野菜を使ったもの。 煮っころがしのじゃがいもと大根は、冬の間、蔵で保存していたものだ。 「ムロを持たない家は毎年秋の取り入れの頃に畑に穴を掘りその穴の上に屋根をかけて保管場所を作ってたよ。そこに野菜を入れて布団をかけて保存しておくと冬の間も凍ってしまうことがない。今は畑までいくのが大変になってきたから蔵に発泡スチロールの箱を入れてその中に野菜を入れている。蔵の中はマイナスになることもあるけど発泡スチロールにいれておけば外気がマイナス10度を下回っても凍らないんだよ」

島立弘さんの蔵の中の様子。

食べつなぐ術

今回の取材で話を伺ったのはいずれも60代以上であった。島立弘さんは80歳だ。
茅野市糸萱区も他の地方にもれず高齢化と過疎化が進んでいる。

あちこちに空き家と耕作放棄地も目立つ。
営農で野菜づくりをしている人は少なく、今は自家用の野菜をほそぼそと作る人がほとんど。だからこそ大切に食べつなぐ。

現代は供給過剰から廃棄処分となる食材が溢れている時代だからこそ「ムロ」とともに暮らす糸萱の人々の食べつなぐ術は、子や孫に伝え残していくだけでなく、この先の持続可能な社会づくりに必要な知恵であると感じた取材であった。

文:中村恭子
一般社団法人蓼科塾代表/地産地消料理研究家
健康管理士/食育アドバイザー
2011年東京都より長野県茅野市に移住。料理教室の開催、地産の伝統野菜を紹介するイベントの企画・運営やそれらを使った料理・菓子のメニュー開発等を行う。2015年、信州の魅力を県外に発信する一般社団法人蓼科塾を設立し代表理事に就任。地産地消に根ざした商品開発やイベントの企画・運営等を手がける。

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